【仏教館】特別展 無冠の仏像—伊豆・静岡東部の無指定文化財

【仏教館】特別展 無冠の仏像—伊豆・静岡東部の無指定文化財

仏像ブーム、国宝ブームと言われて十数年。日本美術の人気は衰えを知りませんが、ブームの主役は国宝や重要文化財で、こうした指定文化財に多くの方の関心が集中しているようです。ところで、現在、文化財指定を受けている仏像は、過去に見いだされ、研究され、その価値が広く認知されることで、指定を受けるに至りましたが、実は今日でも日本各地には、その存在を知られることなく伝えられている貴重な文化財が多数存在しています。
上原美術館は開館以来39年にわたって継続して伊豆の仏像の調査を行い、伊豆に貴重な仏像が存在することを明らかにしてきました。その結果、文化財指定を受けた仏像もありますが、学術的な価値が高いものの、信仰上の理由などから指定を受けていないもの、評価が遅れている仏像も未だ多数にのぼります。また、当館は現在も仏像調査を継続中で、従来全く知られていなかった仏像が日々、見出されています。このような仏像は、現時点では文化財指定を受けていないものの、美術史上、あるいは地域の歴史を考えて行く上で、忘れてはならない、かけがえのない貴重な文化財です。
本展は、伊豆を中心に、静岡県の仏像・仏画の調査研究の最前線にあり続けている当館が独自の調査で見出した仏像に加え、過去に貴重な像であると評価されながら、文化財指定を受けてない、「無冠」の文化財を、厳選して展示するものです。知られざる仏像・神像の数々を是非ご覧ください。

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【近代館】上原コレクション名品選 まなざしをみる—画家とモデルの隠された視線

【近代館】上原コレクション名品選 まなざしをみる—画家とモデルの隠された視線

うっすらとした影の中からこちらを見つめるドラン《婦人像》。そのまなざしは、見るものに何かを語りかけるかのようです。絵の中のまなざしを辿ってみると、そこには時や場所を越えて、描かれた人との交流が生まれます。
絵画には、画家自身のまなざしも隠されています。マティス《鏡の前に立つ白いガウンを着た裸婦》は、大きな鏡の左端にカンヴァスとイーゼルが映り込んでいます。それらは画家の存在を暗示し、明るい色彩の中に複雑で豊かな空間を立ち上がらせます。
一見、何の変哲もない静物画にも画家のまなざしを見ることができます。セザンヌ《ウルビノ壺のある静物》は立体感をなくすかのように静物が真正面からとらえられています。セザンヌは同じ配置のモティーフを斜め上からも描いていますが、その試みは絵画における平面と立体の関係性を問うかのようです。安井曽太郎《銀化せる鯛》も不思議な構図です。この油彩画は、一か月以上描き続けて腐った鯛が「美しかつた。立派な銀の彫刻の様にも見えた」と、真上から見て描かれました。
鏑木清方《みぞれ》は、樋口一葉の小説「たけくらべ」の一場面です。うつむきがちのまなざしは、大人への成長の中で揺れ動く主人公の内面をあらわすかのようです。
本展では画家やモデルのまなざしに注目して、絵画の中に広がる不思議な空間へと入っていきます。まなざしが導く豊かな絵画の世界をどうぞお楽しみください。

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【仏教館】上原コレクション名品選 祈りの文字 祈りのかたち

上原コレクション名品選 祈りの文字 祈りのかたち

本展では、洋の東西を問わず、絵や文字に込められた「祈りのかたち」をご紹介します。江戸時代に活躍した沼津出身の僧、白隠慧鶴は仏の教えを優しく解き明かし、広く人々に伝える手段として、その生涯に多くの絵や書を描きました。飄々とした作風は、昔も今も多くの人々を魅了しています。上原コレクションの《達磨図》は、ぎょろりとした目で上方をにらむ達磨を画面中央に大きく描き、禅の言葉「見性成仏」が書き添えられています。墨のみで表現された世界は、禅の境地を伝えるようです。

また仏の教えを伝える経典は文字ひとつひとつに、祈りを込めて書写されました。《中阿含経》(奈良時代・8世紀)は細身の文字が謹厳な書体であらわされた優品です。一巻約9mの経典ですが、よどみのない筆致は最後まで途切れることがなく、緊張感が伝わってきます。
ほかにもルオーが描くキリスト像、仏教美術コレクションの顔ともいえる十一面観音像や、阿弥陀如来像も展示いたします。さまざまな文字やかたちに込められた「祈りのかたち」をお楽しみください。

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【近代館】上原コレクション名品選 花かおる絵画

上原コレクション名品選 花かおる絵画

「梅の花 香をかぐはしみ 遠けども 心もしのに 君をしぞ思ふ」(市川王、天平宝字2[758]年、万葉集)。これは今から1200年以上前の宴で、梅の香りに託して敬愛の心が詠まれた歌です。日本の芸術では古来より花の香りにさまざまな思いが重ねられてきました。その香りを想像すると、それまでには感じられなかった世界が目の前にあらわれます。絵画もまた、描かれた花の香りをイメージすると、そこには豊かな空間が広がっています。

ルドンが描き出す《花瓶の花》にはアネモネをはじめ色とりどりの花が咲き乱れています。ルドンは自らが描く花を「再現と想起という二つの岸の合流点にやってきた花ばな」と述べました。現実の花が夢幻の世界と合流するように混じり合うその香りは、パステルの不思議な色彩と相まって見るものを幻想的な世界へと導きます。当時の批評家はルドンの花の絵画について次のように述べています。「花がパステルになったのか、パステルが花に変容したのかだれもしらない。(中略)それは控え目だが変わることのない匂いがする。それは妖精だろうか。女神だろうか。いや、それ自身である」。

ピサロ《エラニーの牧場》では、牛が草をはむ田園風景の中に林檎の花が咲き誇っています。明るい色彩であらわされた花々は甘い香りを漂わせて、北フランスの湿潤な大気の中を吹き抜ける爽やかな風を感じさせます。安井曽太郎《桜と鉢形城址》は終戦間近の1945年春に描かれた作品です。疎開先である埼玉県寄居町に桜が咲き誇る田園風景には、穏やかな春の香りが広がります。

本展ではモネ、ルノワール、マティス、梅原龍三郎など上原コレクションから花の香り漂う絵画をご紹介します。美しい花々に包まれてゆったりとしたひとときをお過ごしいただけましたら幸いです。

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【仏教館】陰翳礼讃 影に浮かぶ仏の美 
【近代館】陰翳礼讃 闇に輝く絵画の光

陰翳礼賛

作家・谷崎潤一郎は1933 (昭和8)年、随筆『陰翳礼讃いんえいらいさん』を著しました。そこでは近代化の波に覆われつつある日本が直面する光と影についての葛藤と考察が綴られています。それから約九十年後の現在、日常を取り巻く光はさらに明るさを増し、影はその存在を潜めています。しかし、身の廻りを見渡すと至るところに影の存在があることに気づきます。身近なうつわやペン、そして自分の手を改めて見つめると光の傍に影があらわれます。そして、その影に気づけば、ものの存在が今までとは異なったかたちであらわれてきます。

「美と云うものは常に生活の実際から発達するもので、暗い部屋に住むことを餘儀なくされたわれわれの先祖は、いつしか陰翳のうちに美を発見し、やがては美の目的に沿うように陰翳を利用するに至った」。谷崎は日本における美のあり方について、そう語っています。例えば、黄金が日本家屋の暗がりで放つ美しさを次のように述べています。「庭の明かりの穂先を捉えて、ぽうっと夢のように照り返している」、「私は黄金と云うものがあれほど沈痛な美しさを見せる時はないと思う」。金箔が施された仏像は、もともとお堂や厨子ずしの暗がりで拝まれていました。そうした仏像は陰翳の中でこそ本来の姿があらわれてくるのかもしれません。

絵画もまた、もともと明るい壁に飾るものではなく、薄暗い建物内で鑑賞されていました。特に日本家屋では床の間で鑑賞する掛軸が「陰翳に深みを添える」ものとして尊ばれてきました。そうした歴史的背景を持つ日本画には、暗い建築空間に広がるような繊細な余白の表現が殊のほか美しくあらわされています。

このような陰翳の感覚を持つ日本人にとって、西洋の油彩画を描くことはひとつの新たな挑戦でした。京都帝国大学で西洋の美学美術史を学んだ須田国太郎もそうした画家のひとりです。須田は1919 (大正8)年にスペインへ渡り、プラド美術館などで伝統絵画の陰影表現を学びました。帰国後、京都にある日本家屋の四畳半の居間で制作し続けた須田は、日本独特の深い陰翳をまとった油彩画を生み出していきます。

本展では上原コレクションの仏像や絵画から陰翳の中に潜む美の魅力に注目します。闇を柔らかく照り返すような十一面観世音菩薩像や阿弥陀如来像をはじめ、日本の物語に潜む闇を余白に描き出した小林古径の日本画、油彩画の影に独特の深い存在感をあらわした須田国太郎らの絵画などをご紹介します。また、谷崎潤一郎が旧蔵した小林古径《杪秋びょうしゅう》も展示します。現代の陰翳の中に浮かび上がるジャンルを越えた美の世界をお楽しみいただければ幸いです。

【仏教館】【近代館】 陰翳礼讃

開催期間: 2021年4月29日(木・祝)~2021年9月26日(日)
開館時間: 9:30~16:30(入館は16:00まで)
休館日 : 展覧会会期中は無休
入館料 : 大人1,000円/学生500円/高校生以下無料
※仏教館・近代館の共通券です
※団体10名以上10%割引
※障がい者手帳をお持ちの方は半額
会場  : 上原美術館 近代館・仏教館

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「陰翳礼讃」無料配布ハンドブック

現在開催中の展覧会無料配布ハンドブックを作成しました。
会場で配布していますが、オンラインでも閲覧いただけます。
※スマートフォンではスワイプでページをめくれます。

【近代館】企画展 鏑木清方 築地川の世界

【近代館】企画展 鏑木清方 築地川の世界

鶸色ひわいろに萌えたかえでの若葉に、ゆく春をおくる雨が注ぐ。
あげ潮どきの川水に、その水滴はかずかぎりないうずを描いて、
消えては結び、結んでは消えゆるうたかたの、久しい昔の思い出が、
色のせた版畫はんがのやうに、築地川の流れをめぐつてあれこれとしのばれる。
(鏑木清方 随筆集『築地川』より)

鏑木清方(1878-1972年)は、幼い頃に暮らした東京・下町に深い郷愁の念を抱いていました。上原美術館で新収蔵しました画帖《築地川》は、清方の少年時代の思い出に満ちた作品です。
築地川はかつて築地を囲むように流れていた掘割の川で、そこには多くの人々が集い生活を営んでいました。外国人居留地があった「明石町」、夏は行人の憩いの場となった「伊達様の水門」、夕涼みに賑わう「亀井はし」、鰯売りが水揚げする「佃」など、水とともに生きる明治時代の人々の姿が作品からは垣間見えます。
また、清方は紫陽花をこよなく愛した画家としても知られています。それは幼少の頃に「明石町」にあった異人館で咲く紫陽花や、築地一丁目の「紫陽花の垣」に魅了されたことに始まるといいます。清方の思い出にあふれた画帖からは、少年時代に見た築地川流域の姿が目の前に広がるようです。
本展では美しい絵と文章でつづられた画帖《築地川》を中心に、清方が描いた明治の下町に暮らす人々の生活をご紹介します。清方の愛した穏やかな懐かしい日々の情景、そしてそこで生きる魅力的な人々の姿をどうぞご覧ください。

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【仏教館】特別展 静岡の仏像+伊豆の仏像 ―薬師如来と薬師堂のみほとけ―

【仏教館】特別展 静岡の仏像+伊豆の仏像 ―薬師如来と薬師堂のみほとけ―

静岡県は東西を結ぶ東海道、太平洋と甲斐国(山梨県)を結ぶ富士川街道など、無数の街道が縦横に走る本州の結節点。静岡県中部は古く駿河国と呼ばれ、現在の静岡市に国府が置かれていました。一方、県東端の伊豆は古来海上交通の要衝で、遠く離れている静岡市と伊豆は、同じように人とモノ、文化が行き交う重要な土地だったのです。

静岡市と伊豆を仏像から見ると、興味深い共通点があります。いずれも古い薬師如来像が多く、薬師如来を中心とする群像があるのです。本展では伊豆に伝わる薬師像と、静岡市に伝わる薬師如来を取り巻く群像の一部を厳選して展示。二つの地域の仏教文化についてあわせて考える機会となればと思います。展示する仏像の多くは通常非公開。この機会に是非ご覧ください。

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【近代館】 絵画が紡ぐ物語

コレクター上原昭二が半世紀以上をかけて集めた絵画コレクションには、画家たちのユニークな物語やエピソードをもつ作品が集まっています。それらの中には、作家同士の交流が育んだ作品だけでなく、過去や同時代の作品との出会いによって制作されたものも数多くみられます。本展では、こうした絵画の生まれるきっかけとなった画家や作品との出会いが紡いだ物語を、モネたち印象派の作品などからご紹介します。
印象派を代表する画家クロード・モネは、葛飾北斎や歌川広重らの浮世絵を通じて日本の富士山を知り、日本らしさを代表するこの山への憧れを抱いてきました。そうした思いは、ノルウェーに滞在した折に、雪の積もるコルサース山を富士山に見立てた連作として結実します。当館が所蔵する《雪中の家とコルサース山》もそうした連作のひとつであり、モネが愛蔵した北斎『富嶽三十六景』などの浮世絵は、彼が新たな作品を生み出すきっかけとなりました。こうしたエピソードは、作品に秘められた背景を明らかにし、モネが雪山に込めた日本への深い愛着を我々に教えてくれます。
本展示ではそのほか、ルノワールがモネとともに印象派絵画の表現を模索した《アルジャントゥイユの橋》、ゴッホが私淑したミレーの版画を模写した《鎌で刈る人(ミレーによる)》、ドランがセザンヌ風の色彩と造形を試みた《レ・レックの森の中》などから、絵画が紡いだ物語をお楽しみください。

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【仏教館】胡蝶舞う浄土

経巻を紐解くと、見返しには蝶と迦陵頻伽かりょうびんが(極楽浄土に住むという鳥)に仮装した二人の童子が舞い、濃紺の料紙に金泥で書写された経文は、夜空の星のような輝きを放ちます。美麗な装束をまとう童子の豊かな頬は赤らみ、足元の銀の輝きは二人にスポットライトを当てるかのようです。平安の華麗なひと時を垣間見せてくれる経巻。このたび上原美術館は、この美麗な装飾経を収蔵、初公開いたします。本経は平安末期から鎌倉初期の高位の貴族、平基親たいらのもとちかが制作したもので、平基親願経といいます。平基親願経は妙法蓮華経を書写した、もと十巻からなるもので、本経はこのうちの第五巻になります。巻末の奥書から、治承4(1180)年、平基親自らが書写したものであることが分かります。本展では後陽成ごようぜい天皇の第十皇子、尊覚親王が承応元(1652)年に書写した「唯識三十頌ゆいしきさんじゅうじゅ」も初公開するほか、中尊寺経など紺紙金字経の優品もご紹介します。また、当館所蔵の平安、鎌倉時代の仏像もあわせて展示いたします。

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【近代館】 四季の情景-上原コレクションを楽しむ

 

本展では新収蔵・初公開となる鏑木清方《十一月の雨》を中心に、上原コレクションから日本画に描かれた四季の情景をご紹介いたします。
鏑木清方(1878-1972)は、江戸の文化が色濃く残る明治初め、東京神田に生まれました。新聞小説の挿絵画家としてスタートした清方は、そこで培った叙情的な表現で、多くの美人画や風俗画を描きました。
《十一月の雨》もまた、初冬の雨に濡れる下町の情景が表情豊かに描かれています。傘を差した女性は、荷車の花の鮮やかさに目を留めたのか、振り返って微笑んでいるようです。荷車の向こうでは焼芋屋が忙しそうに支度をして、あたりには甘い香りが立ちこめています。その隣家には絵草紙の下、男性が書物を読み耽っているようです。画面にはこうした人々の暮らしとともに、雨に潤んだ空気感が捉えられ、清方の愛した下町の情景が浮かび上がります。清方はこの作品について「焼芋屋の店も今では見かけなくなったが、銀杏の葉が黄いろく落ちる頃、灰色に時雨るゝ巷にたなびく煙、芋の焼けるにほひ、隣りの絵双紙屋と共に愛すべき明治の庶民に生活の悦びをあたへた忘れ難いものであった」と、振り返っています。
そのほか、初雪に微笑む女性を描いた上村松園《初雪》や、春霞に煙る山桜を篝火が照らし出す横山大観《夜桜》、ひなびた漁村の夏を爽やかに描いた竹内栖鳳《海濱小暑》などをご紹介いたします。

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上原美術館