オディロン・ルドン Odilon Redon
花瓶の花 Fleurs au vase
1910年頃  パステル・紙 55.0×40.0cm

「花がパステルになったのか、パステルが花に変容したのかだれも知らない」。ルドンのパステル画を、当時の批評家フォンテナスはそう表現している。かつて“黒”を追求していたルドンの画業は、1890年頃から徐々に色彩の追求へと移行していった。「私は色彩と結婚しました。もうそれなしで過ごすことはできません」と自ら語るこの転換は制作上の理由ばかりでなく、カミーユとの結婚や自身の病気、少年時代を過ごした荘園ペイルルバードの売却など外的な要因もあった。この頃の手紙で「私が少しずつ<黒>を見捨てているというのは本当です。ここだけの話ですが、それは私をくたくたにさせるのです」とも述べている。
そうした中で出会ったのがパステルという素材だった。「私はパステルで、疲れもなしに制作します。それは描くように仕むけてくれるのです」。ルドンはパステルを用いて花や神話など彩り溢れる世界を展開する。しかし、ルドンの画面から“黒”が消え去ってしまったわけではない。本作でも、色とりどりの花が活けられた花瓶の脇に広がる“黒”が、どの色彩にもまして花の生命を浮かび上がらせている。