【近代館】企画展 鏑木清方 築地川の世界

【近代館】企画展 鏑木清方 築地川の世界

鶸色ひわいろに萌えたかえでの若葉に、ゆく春をおくる雨が注ぐ。
あげ潮どきの川水に、その水滴はかずかぎりないうずを描いて、
消えては結び、結んでは消えゆるうたかたの、久しい昔の思い出が、
色のせた版畫はんがのやうに、築地川の流れをめぐつてあれこれとしのばれる。
(鏑木清方 随筆集『築地川』より)

鏑木清方(1878-1972年)は、幼い頃に暮らした東京・下町に深い郷愁の念を抱いていました。上原美術館で新収蔵しました画帖《築地川》は、清方の少年時代の思い出に満ちた作品です。
築地川はかつて築地を囲むように流れていた掘割の川で、そこには多くの人々が集い生活を営んでいました。外国人居留地があった「明石町」、夏は行人の憩いの場となった「伊達様の水門」、夕涼みに賑わう「亀井はし」、鰯売りが水揚げする「佃」など、水とともに生きる明治時代の人々の姿が作品からは垣間見えます。
また、清方は紫陽花をこよなく愛した画家としても知られています。それは幼少の頃に「明石町」にあった異人館で咲く紫陽花や、築地一丁目の「紫陽花の垣」に魅了されたことに始まるといいます。清方の思い出にあふれた画帖からは、少年時代に見た築地川流域の姿が目の前に広がるようです。
本展では美しい絵と文章でつづられた画帖《築地川》を中心に、清方が描いた明治の下町に暮らす人々の生活をご紹介します。清方の愛した穏やかな懐かしい日々の情景、そしてそこで生きる魅力的な人々の姿をどうぞご覧ください。

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【仏教館】特別展 静岡の仏像+伊豆の仏像 ―薬師如来と薬師堂のみほとけ―

【仏教館】特別展 静岡の仏像+伊豆の仏像 ―薬師如来と薬師堂のみほとけ―

静岡県は東西を結ぶ東海道、太平洋と甲斐国(山梨県)を結ぶ富士川街道など、無数の街道が縦横に走る本州の結節点。静岡県中部は古く駿河国と呼ばれ、現在の静岡市に国府が置かれていました。一方、県東端の伊豆は古来海上交通の要衝で、遠く離れている静岡市と伊豆は、同じように人とモノ、文化が行き交う重要な土地だったのです。

静岡市と伊豆を仏像から見ると、興味深い共通点があります。いずれも古い薬師如来像が多く、薬師如来を中心とする群像があるのです。本展では伊豆に伝わる薬師像と、静岡市に伝わる薬師如来を取り巻く群像の一部を厳選して展示。二つの地域の仏教文化についてあわせて考える機会となればと思います。展示する仏像の多くは通常非公開。この機会に是非ご覧ください。

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【近代館】 絵画が紡ぐ物語

コレクター上原昭二が半世紀以上をかけて集めた絵画コレクションには、画家たちのユニークな物語やエピソードをもつ作品が集まっています。それらの中には、作家同士の交流が育んだ作品だけでなく、過去や同時代の作品との出会いによって制作されたものも数多くみられます。本展では、こうした絵画の生まれるきっかけとなった画家や作品との出会いが紡いだ物語を、モネたち印象派の作品などからご紹介します。
印象派を代表する画家クロード・モネは、葛飾北斎や歌川広重らの浮世絵を通じて日本の富士山を知り、日本らしさを代表するこの山への憧れを抱いてきました。そうした思いは、ノルウェーに滞在した折に、雪の積もるコルサース山を富士山に見立てた連作として結実します。当館が所蔵する《雪中の家とコルサース山》もそうした連作のひとつであり、モネが愛蔵した北斎『富嶽三十六景』などの浮世絵は、彼が新たな作品を生み出すきっかけとなりました。こうしたエピソードは、作品に秘められた背景を明らかにし、モネが雪山に込めた日本への深い愛着を我々に教えてくれます。
本展示ではそのほか、ルノワールがモネとともに印象派絵画の表現を模索した《アルジャントゥイユの橋》、ゴッホが私淑したミレーの版画を模写した《鎌で刈る人(ミレーによる)》、ドランがセザンヌ風の色彩と造形を試みた《レ・レックの森の中》などから、絵画が紡いだ物語をお楽しみください。

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【仏教館】胡蝶舞う浄土

経巻を紐解くと、見返しには蝶と迦陵頻伽かりょうびんが(極楽浄土に住むという鳥)に仮装した二人の童子が舞い、濃紺の料紙に金泥で書写された経文は、夜空の星のような輝きを放ちます。美麗な装束をまとう童子の豊かな頬は赤らみ、足元の銀の輝きは二人にスポットライトを当てるかのようです。平安の華麗なひと時を垣間見せてくれる経巻。このたび上原美術館は、この美麗な装飾経を収蔵、初公開いたします。本経は平安末期から鎌倉初期の高位の貴族、平基親たいらのもとちかが制作したもので、平基親願経といいます。平基親願経は妙法蓮華経を書写した、もと十巻からなるもので、本経はこのうちの第五巻になります。巻末の奥書から、治承4(1180)年、平基親自らが書写したものであることが分かります。本展では後陽成ごようぜい天皇の第十皇子、尊覚親王が承応元(1652)年に書写した「唯識三十頌ゆいしきさんじゅうじゅ」も初公開するほか、中尊寺経など紺紙金字経の優品もご紹介します。また、当館所蔵の平安、鎌倉時代の仏像もあわせて展示いたします。

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牛島憲之≪夕月富士≫

牛島憲之
夕月富士
1987(昭和62)年 油彩・カンヴァス 53.3×91.0cm

山中湖から見た富士山の夕暮れのひとときです。山上には月が昇り、湖をゆく一艘の小さな船は雄大な自然に暮らす人々の気配を感じさせます。
本作は牛島憲之が87歳のときに描いた作品です。それまで多くの画家が描いた「富士山だけは描くまい」と思っていた牛島ですが、別荘のある伊豆への往復の際に富士山を見て、その心は次第に変化していきます。「その美しさがだんだんと私の心の中に蓄積されていき、あるとき突然限界点に達したのでしょう、急に描きたくなったのです。私には私の富士があるはずだ、と。八五の時でした」。火山が生み出した富士の美しい姿は、人間の一生を超えて、人々の心に悠然と聳(そび)え立つかのようです。

 

 

 

 

【近代館】 四季の情景-上原コレクションを楽しむ

 

本展では新収蔵・初公開となる鏑木清方《十一月の雨》を中心に、上原コレクションから日本画に描かれた四季の情景をご紹介いたします。
鏑木清方(1878-1972)は、江戸の文化が色濃く残る明治初め、東京神田に生まれました。新聞小説の挿絵画家としてスタートした清方は、そこで培った叙情的な表現で、多くの美人画や風俗画を描きました。
《十一月の雨》もまた、初冬の雨に濡れる下町の情景が表情豊かに描かれています。傘を差した女性は、荷車の花の鮮やかさに目を留めたのか、振り返って微笑んでいるようです。荷車の向こうでは焼芋屋が忙しそうに支度をして、あたりには甘い香りが立ちこめています。その隣家には絵草紙の下、男性が書物を読み耽っているようです。画面にはこうした人々の暮らしとともに、雨に潤んだ空気感が捉えられ、清方の愛した下町の情景が浮かび上がります。清方はこの作品について「焼芋屋の店も今では見かけなくなったが、銀杏の葉が黄いろく落ちる頃、灰色に時雨るゝ巷にたなびく煙、芋の焼けるにほひ、隣りの絵双紙屋と共に愛すべき明治の庶民に生活の悦びをあたへた忘れ難いものであった」と、振り返っています。
そのほか、初雪に微笑む女性を描いた上村松園《初雪》や、春霞に煙る山桜を篝火が照らし出す横山大観《夜桜》、ひなびた漁村の夏を爽やかに描いた竹内栖鳳《海濱小暑》などをご紹介いたします。

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【仏教館】知られざる伊豆の仏教美術

 

伊豆に今も伝わる仏教美術の中には、人知れず、伝えられてきたものが数多く眠っています。本展では、こうしたあまり知られていない文化財にスポットを当て、その魅力をご紹介いたします。伊豆の玄関口、熱海市の伊豆山は伊豆半島内の修験者の行場として、古くより信仰を集めてきました。その中腹に祀られる地蔵菩薩像が、今回、堂外初公開となります。また近世初期に戦乱を逃れ、伊東に落ちのびた武士がもたらした毘沙門天像や、伊豆南部地域の人々が願いを込めて書写した大般若経、今も涅槃会でのみ公開される江戸時代の涅槃図などを展示いたします。伊豆半島で育まれた豊饒な仏教美術の世界をご覧ください。

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上原美術館