小林古径 《草花》

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小林古径
草花
1951(昭和26)年 紙本彩色・軸装 48.7×63.5cm

梶田半古に師事した古径は、伝統的な日本画の教育を受けると同時に、写生ということを非常に重んじた師の教えを受け、写実の基礎を固めました。1922(大正11)年、日本美術院の留学生として前田青邨とともに渡欧した折には、大英博物館で伝顧愷之『女史箴図巻』の「春蚕の糸を吐くが如き描線」に感銘を受けました。東洋古画のもつ繊細かつ強靭な線描へと傾倒しながら、「実物の性格や機能、形や色や量、更にはその生命までも知り尽くそう」という写実精神にもとづくことで、古径の芸術は形成されていきます。

本作は古径晩年の作です。チューリップの茎や花弁には肥痩(線の細い太い)のない線描がみられます。その厳しい線描は、抑制された色彩や理知的な構成、余白のぼかしと相俟って黒いチューリップの生命力を見事にあらわしているといえるでしょう。

小林古径 《杪秋》

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小林古径
杪秋
1951(昭和26)年 紙本彩色・軸装 35.2×47.7cm

厳しい線描が特徴の古径ですが、ここでははっきりとした線は画面右の猫にのみ施されています。柿の葉や実は黄色や橙色、茶色などの鮮やかな色面でリズミカルに捉えられ、画面を華やかに飾り立てています。それらの描写に写実性はなく、よく見ると枝から離れてさえいます。しかし、はらはら落ちる葉はその重さまでをも感じさせるかのようであり、単なる写実的描写から離れて平面的リズムによって独自のリアリズムに到達しています。地面は色面を暈して描かれており、琳派や大和絵などの影響に基づく伝統的な空間描写を見ることができます。

山本正道 《風と少女―Versilia》

山本正道
風と少女―Versilia
2000(平成12)年 マルモ・ギブリ H95.0×W210.0×D65.0cm

大理石の一種であるマルモ・ギブリが伊豆の風土に馴染んで、山々に溶け込むように少女が佇んでいます。その柔らかなフォルムは、伊豆の山々を優しく吹き抜ける風をも連想させるようです。この彫刻作品は、上原近代美術館の開館した2000年に中庭に設置され、来館者に親しまれてきました。

1941(昭和16)年、京都に生まれた山本正道は、東京藝術大学彫刻科を卒業、同大学院を修了後は第5回平櫛田中賞や第31回中原悌二郎賞を受賞しました。1968(昭和43)年にイタリアへ渡り、ローマ美術学校のファッツィーニ教室に学びます。1978(昭和53)年には渡米し、アメリカ南西部に広がるプエブロ・インディアンの遺跡などを訪ねました。山本独自の柔らかなフォルムと素材の魅力は、そうした豊かな体験から生まれたかのようです。

 

教育活動 ティーチャーズ・デー ―先生のための鑑賞講座―

日  時2016年5月14日(土) 13:00 - 15:30
会  場上原近代美術館 会議室、展示室
集合場所上原近代美術館 会議室
講  師上原近代美術館学芸員
対  象小・中学校、高等学校の教員、および美術教育に興味関心のある方
定  員20名(当日見学も可)  参加費:無料
内  容鑑賞教育の概要、模擬授業(アートカードなどを使用)、出張授業などの事例紹介
主  催公益財団法人 上原美術館
申  込下記事項をメール、電話またはFaxにて5月13日(金)までに、上原近代美術館までお知らせください(募集人数に達し次第締め切らせていただきます)

申込用紙(PDF)

 

【近代美術館】花の絵画―モネ、ルドン、安井曽太郎らが描く季節の彩り―

2016年1月13日(水)~3月13日(日)

絵画を彩る美しい花々。その優美な姿と豊かな色彩は見るものを深く魅了します。セーヌ川近くの小村に咲く花々をリズミカルなタッチでとらえたモネ≪藁ぶき屋根の家≫をはじめ、ルドン、梅原龍三郎、安井曽太郎らが描き出した花々の彩りを楽しみます。 *2016年3月14 日(月)は展示替えのため休館

 

展覧会関連イベント

展示解説(ギャラリートーク)

展示されている作品について学芸員が解説を行います。

実施日:2016年1月30日(土)、2月20日(土)、3月5日(土)
時間:各日とも11:00、14:00より(所要時間約30分)
場所:当館展示室(第1展示室にお集まりください)

【近代美術館】はじまりの絵画―画家の新たなものがたり―

2016年7月22日(金)~11月27日(日) *会期中無休

ゴッホは10年という短い画業のはじまりに、敬愛するミレーの版画を模写しました。そこには、生命へのまなざしというゴッホ芸術全体に通じる本質が垣間見えます。そのほか、シニャック、セザンヌ、安井曽太郎、須田国太郎らの青年時代や転換点の絵画から、その芸術の本質に迫ります。

展覧会関連イベント

展示解説(ギャラリートーク)

展示されている作品について、学芸員が解説します。

日 時 2016年8月20日(土)、9月17日(土)、10月15日(土)、11月19日(土)
各日とも11:00、14:00より(所要約30分)
場 所当館展示室(第1展示室にお集まりください)
申 込不要 ※要入館券

 

第19回講演会「ゴッホ若き日のデッサン≪鎌で刈る人≫、そして晩年の絵画へ」

■講師:シュラール・ファン・ヒューフテン氏 Sjraar Van Heugten
(美術史家、元ファン・ゴッホ美術館コレクション部長)
■日時:2016年10月10日(月・祝) 13:30~15:00
■会場:下田市民文化会館 大ホール

オランダより画家ゴッホの世界的研究者であるシュラール・ファン・ヒューフテンさんをお招きして、講演会を開催しました。
ヒューフテンさんは、当館が収蔵するゴッホ≪鎌で刈る人(ミレーによる)≫を「再発見」し、2015年にヨーロッパでの展示を実現してくださいました。そうしたご縁から今回、下田で講演を行っていただくことになりました。
ゴッホは27歳のときに画家を志しますが、はじめに取り組んだのは敬愛するミレーを模写することでした。当館のデッサンは初期の鉛筆によるミレーの模写の中で唯一残っているものです。
牧師を目指したゴッホにとって、「鎌で刈る人」というテーマは死を暗示する宗教的な意味があったといいます。ゴッホは10年という短い画業の中で度々、このテーマを描きました。ゴッホは風景画の中にさえ「鎌で刈る人」を描き込んでいます。こうした「麦の収穫」や「刈る人」というテーマには、生命のサイクルに向き合うゴッホのまなざしを見出すことができます。そして、画業のはじまりに描かれたデッサン≪鎌で刈る人≫には、ゴッホ芸術の本質を垣間見ることができます。
ヒューフテンさんは初めて下田でゴッホの初期デッサンを見たときのエピソードや、ヨーロッパで当館の作品を展示したときの写真などを交えながら、ゴッホ芸術の本質についてお話くださいました。

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【近代美術館】黒は色彩―マティス、ルオー、ブラックによる美しき彩り―

 

 

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色彩のなかでも最も暗い黒。画家たちはそれを巧みにあやつり、世界を美しく彩ります。
 「黒は色彩である Le noir est une couleur 」。その言葉は1946年にマーグ画廊の展覧会タイトルとして使われました。この展覧会にはマティスやブラックらが参加、マティスはそこにルオーを誘います。彼らの時代において、黒はもはや影や闇をあらわすものではなく、一つの色彩や光として自由に用いられるようになっていました。
 本展ではそうした画家たちの黒に注目し、その絵画の魅力をご紹介します。マティスやブラック、ルオーらが織り成す美しい黒の世界をお楽しみいただければ幸いです。

*2017年7月18日(火)~7月21日(金)は展示替えのため休館

 

上原美術館