弘法大師の生涯を描いた絵巻物の断簡。ふっくらとした体にすっと天地を指す誕生仏。塔の中にみほとけの言葉が書かれたお経の一部。小さいながらも、大切に伝えられてきた作品は今も数多く遺されています。本展では、新収蔵・初公開となる《高野大師行状図画断簡》(紙本著色・鎌倉~南北朝時代)を中心に、上原コレクションから小さくも愛らしい仏教美術をご紹介します。

《高野大師行状図画断簡》は、真言宗の祖、弘法大師・空海の生涯を伝える絵巻物の一部分です。二人の対面する僧侶が描かれた本作は、中国・唐に留学中の空海のエピソードが描かれています。留学した空海は、当時、密教の第一人者であり、多くの弟子を持つ恵果阿闍梨に師事しました。ある時、恵果の弟子、珍賀が空海を誹謗します。しかしその夜、珍賀の夢に四天王が現れ、空海を誹謗したことを責めたてたため、翌朝、慌てて謝罪をしました。画面には建物の中に座す空海、庭でひれ伏し謝る珍賀の姿が描かれています。切り取られた絵巻物の一片にはゆたかな物語が広がっています。

《誕生仏》(銅造・鎌倉時代)も本展で初公開となる作品です。釈迦が生まれた姿をうつしとった誕生仏は、ふっくらとした小さな体で天地を指さしています。20㎝に満たない大きさの像ですが、微笑する口からは今にも「天上天下唯我独尊」と言葉を発しそうです。

本展では、《一字宝塔法華経》(長寛元[一一六三]年)や《大日如来像》(文永七[一二七〇]年)などを小さいながら愛らしい作品を展示いたします。手元にそっと置いて、対面したくなるような仏教美術の数々をお楽しみください。

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