【仏教館】特別展 伊豆仏に出逢う ―上原美術館の40年―

昭和58年5月29日に開館した上原仏教美術館は、翌年6月から伊豆南部の寺院の調査に着手。その後、平成29年に上原近代美術館と一つになり、上原美術館になってからも調査を継続し、伊豆に数多くの優れた仏教美術や文化財があることを明らかにしてきました。

阿弥陀如来像は、美術館の正面にある、下田市向陽寺から見出された仏像で、西川新次氏(当時は慶應義塾大学教授)により、10世紀後半から11世紀半ばの像とされました。当館が最初に出逢った伊豆の平安仏の一体で、現在知られているものとしては、伊豆最古の阿弥陀如来像です。

松崎町吉田寺の阿弥陀三尊像及び毘沙門天像は、昭和62年11月の調査で見出された仏像です。本像は水野敬三郎氏(当時は東京藝術大学教授)らによる調査、昭和63年12月から翌平成元年12月の修理を経て、平成7年3月、伊豆を代表する鎌倉仏の一例として、静岡県指定有形文化財となりました。

古くから知られていたものの、近年の調査研究により、新知見が得られた像もあります。従来仁王像とされた、河津平安の仏像展示館の二体の天部像(旧南禅寺伝来)は、調査を経て二天像とされ、さらに近年の調査で、現在は失われた像のものと考えられる腕が新たに確認されたことから、現在は四天王像のうちの二体が残ったものと考えられています。さらに、本像を含む当初の26体の平安仏群については、近年、伊豆諸島の火山活動を契機に造像されたとする説が得られています。

本展は、上原仏教美術館開館40周年を記念し、長年にわたって伊豆半島の仏像調査の最前線にあり続けている当館の活動を、調査した仏像の展示を通じて振り返る展示です。知られざる伊豆の歴史を秘めた、仏像との出逢いをお楽しみください。

展覧会紹介動画

【近代館】特別展 絵画は語る ―上原コレクションのストーリー

目の前にある一つの絵画は、心の耳を傾けてみると、そのストーリーを静かに語り始めます。

アンドレ・ドラン《裸婦》は、上原コレクションのはじまりを語ります。1967(昭和42)年5月、大正製薬に勤める39歳の上原昭二(現・名誉会長)は、ある画廊でこの小さな油彩画と出会いました。絵のことはよく分からない上原でしたが、この絵に不思議な魅力を感じて、初めて油彩画を購入しました。しかし当時、同居していた両親に「分不相応」と怒られることを恐れて、押し入れに隠しては、たまに出して眺めたといいます。次第に穏やかな光と色彩、そして静かに語りかけるような女性の存在感に引き込まれて、「足長お嬢さん」と呼んで愛蔵します。そこから徐々に自分の好きなものだけを集め続けて、いつしか印象派から日本近代絵画まで、幅広いコレクションが形づくられました。そして、古希を過ぎた2000(平成12)年、上原はコレクションを寄贈して上原近代美術館を設立します。ひとりのコレクターのまなざしのもとに集った絵画は、ドラン《裸婦》のまなざしのように、優しさや穏やかさといった気配をまとっています。

本展では、上原コレクションそれぞれの絵画が語るストーリーに耳を傾けます。浮世絵の富士山に憧れたモネが、ある日本人コレクターに譲った《雪中の家とコルサース山》、上原が日本で偶然出会ったゴッホ幻の初期作品《鎌で刈る人(ミレーによる)》など、絵画が辿ったストーリーをご紹介いたします。上原コレクションを伊豆の地でお楽しみいただき、見る方それぞれの物語を紡いでいただけましたら幸いです。

展覧会紹介動画

【近代館】上原コレクション名品選 雨をたのしむ

【近代館】上原コレクション名品選 雨をたのしむ

「雨」と一口に言っても、季節や時間、降水量や風の強弱といった違いで、恵みの雨になることもあれば、人々の生活を脅かすような暴雨になることもあります。古くから我々はさまざまな表情を見せる雨の変化に注視して生活してきました。一方で、雨が見せるさまざまな表情は、多くの画家たちが魅せられた題材でもあります。

本展覧会では、上原美術館が所蔵する日本画家・鏑木清方を中心に日本画から油彩画まで、雨が描かれた上原コレクションを厳選してご紹介します。

鏑木清方は「雨ならばたいていの人はきらひな五月雨にも、秋ふる長雨にも、とりどりに詩情をさそはれ、畫心をよぶ」といい、多くの雨の情景を描きました。清方が18歳のときに描いた《初冬の雨》(新収蔵・当館初公開)は、雨に濡れる下町の情景が生き生きと表現されています。同じく、新収蔵された《木母寺夜雨》は、傘をさした二人の女性の歩む姿が描かれています。提灯に照らされた女性たち以外は、闇夜にしとしとと雨が降るようすを情緒豊かに墨で表現しています。

そのほか、雨にかすむ光景を彩り豊かな色彩であらわしたピエール·ボナール《雨降りのル·カネ風景》、雨に濡れる大輪の牡丹を描いた松林桂月《牡丹》、雨あがりの情景が幻想的な牛島憲之《雨明かる》などを紹介します。

これらの作品は、雨に濡れるからこそ一層美しく輝き、雨だからこそみられる情景が捉えられています。上原コレクションより雨にまつわる絵画の魅力をお楽しみください。

展覧会紹介動画

【仏教館】企画展 きれいな仏像 愉快な江戸仏

【仏教館】企画展 きれいな仏像 愉快な江戸仏

仏像は、仏教の聖なる尊像であり、仏教徒の信仰対象、心のよりどころです。古代中世、仏像を制作した仏師たちの多くは、宗教者でもあり、その優れた技術に、自らの信仰を込め、丹精込めて仏像を作りました。こうして作られた仏像は、美しく、現代では彫刻作品としても高い評価を受けています。またこれらの仏像は、鎌倉時代なら七百年から八百年、平安時代なら九百年、あるいは千年を超える時を越えて、現代に伝えられてきました。古い仏像は歴史を考える上で、貴重な文化財でもあります。

上原美術館は開館以来、古く優れた仏教美術の収集に努め、多くの仏像を収蔵してきました。当館ではこの度、納入願文により、鎌倉時代の文永七(1270)年に制作されたことが分かる、阿弥陀如来像を収蔵しました。本展ではこの像を初公開するとともに、当館が所蔵する全ての仏像を展示いたします。

古代中世の仏像が、彫刻作品として高い評価を受ける一方、各地の寺院やお堂を訪ねると、それ以外の数多くの仏像に出会います。その多くは、江戸時代に造られた仏像で、古くても四百年前、ほとんどが二百年そこそこの若い仏像たちです。江戸時代の仏像は新しいだけでなく、たいていはとても小さく、造形は拙く、見劣りがします。しかし、これらの像に向き合うと、それらのお像に込められた祈りと、素朴で愛らしい姿に触れることができます。上原美術館では開館以来、四十年に渡り、伊豆の仏教美術の調査を継続してきました。調査によって見出された仏像の大多数は、江戸時代のものですが、これまでは、江戸時代の仏像を展示し、紹介する機会はほとんどありませんでした。本展では当館が出会った、素朴ながら愛らしく、愉快な仏像十数点を厳選して展示します。当館所蔵の仏像と、伊豆に伝えられた愉快な江戸時代の仏像の競演を是非ご覧ください。

展覧会紹介動画

【仏教館】上原コレクション名品選 きれいなお経 かわいいお経

【仏教館】上原コレクション名品選 きれいなお経 かわいいお経

釈尊、諸仏の言葉とされるお経は、仏教徒にとって聖なる書物です。お経は心を込めて書写されるとともに、時に特別な料紙を用いたり、扉絵を描いたりして、装飾されました。本展はそのような「きれいなお経」を展示する企画展です。

平安時代には、藍で深く染めた紺紙に、金泥や銀泥で経文を書写する経典が多く制作されました。このうち名高いものに、奥州藤原氏の初代、藤原清衡が制作した中尊寺経、鳥羽天皇の発願による神護寺経、鳥羽天皇の皇后、美福門院が発願した荒川経があり、いずれも仏教の主要な経典や典籍を集成した、五千数百巻からなる一切経です。このうち当館はすでに中尊寺経、神護寺経を所蔵していましたが、新たに、荒川経を収蔵。本展ではこの三つをあわせて展示いたします。

紺紙金字経の変わり種が、一字宝塔法華経断簡です。紺紙に金泥で沢山の宝塔を描き、一基の宝塔に法華経の一文字を納めるように書写したもので、平安時代、長寛元年(1163)に心西という僧によって制作されたお経。本経も当館で新収蔵、初公開します。また、上下に藍のぼかしを入れ、銀箔を散らした料紙を用いた平安時代の古写経、雲紙法華経断簡(新収蔵)も本展で初めて展示いたします。

当館ではこのたび、鎌倉後期から南北朝時代に描かれた「善財童子絵」も収蔵いたしました。本図は二巻からなる巻物の断簡で、華厳経の入法界品の一場面を描くものです。入法界品は、数十巻からなる華厳経の後半、菩薩の道を求める善財童子が、各地の五十三人の善知識を訪ね、教えを受けるエピソードを記す部分です。このうち新収蔵の図は、善財童子が、三十四人目の善知衆芸童子を訪ねる場面。幼さの残る顔立ちの若き二人の求道者が、美しい自然の中で出会うさまを描く本図は、淡い色彩とあいまって、幻想的で詩情豊かな作品です。

きれいなお経、かわいい挿絵が描かれたお経や絵巻の数々をご覧ください。

展覧会紹介動画

【近代館】特別展 梅原龍三郎と伊豆

【近代館】特別展 梅原龍三郎と伊豆

日本近代洋画を代表する画家のひとりである梅原龍三郎(1888–1986年)は、伊豆と深い縁がありました。梅原は生涯を通じて熱海や江ノ浦、大仁など伊豆や周辺の地を訪れます。そこで生まれる雄壮できらびやかな作品群は、代表作として広く知られるようになりました。

梅原はフランス留学から帰国した20代半ば、日本の風土をどのように描くか模索を重ねます。南仏を思わせる《熱海風景》は伊豆の風土を通じて日本独特の湿潤な光をあらわしています。40代になると熱海にある友人の別荘に度々滞在して、《紅良像》や《来の宮》を描きます。この頃の夏、梅原は家族とともに伊豆・西海岸の江ノ浦を訪れ、《江ノ浦 残月》など日本の風景を雄壮にとらえた独自の画風を確立していきます。第二次世界大戦が始まると、梅原は大仁に疎開しました。山上にある大仁ホテルに滞在した梅原は、そこから見える富士の威容に魅了され、戦後、富士山シリーズが生まれます。

本展では伊豆にまつわる初期から晩年の絵画を通じて、梅原龍三郎と伊豆の関係を紹介するほか、新たに発見された伊豆日記などの資料から、その時代背景を探ります。そのほか、《黄金の首飾り》や《ナルシス》など初期の代表作を合わせて展示し、梅原芸術の魅力に迫ります。

展覧会紹介動画

動画配置予定

【近代館】船と絵画—みなもに揺られて

上原コレクション名品選【近代館】船と絵画—みなもに揺られて

遠くの人やものを繋ぐ船は、古くから人々の生活のそばにありました。そして、画家たちは様々な思いとともに船を描きます。
新印象主義の画家シニャックは生涯30隻以上の船を所有し、海の風景を数多く描きました。《アニエール、洗濯船》は画家18歳の作品です。モネに憧れて絵を描き始めた若きシニャックによるセーヌ川のかがやきは、大海に船を漕ぎ出す自らの未来を暗示するかのようです。
旅の画家マルケもまたセーヌ川などで多くの船を描きます。マルケにとって船が大きな意味を持つようになったのは1920年のことです。北アフリカのアルジェを旅したマルケは、そこで生涯の伴侶と出会いました。その後、度々地中海を渡ったマルケは、船そのものが後半生をあらわす重要な乗りものとなります。
また、上原美術館のある伊豆・下田も船にゆかりの深い土地です。古来良港として栄えた下田港は、幕末にペリーが来航し近代の夜明けがはじまりました。1954(昭和29)年に下田を訪れた須田国太郎は港の向こうに並ぶなまこ壁の家々を印象的にとらえ、船が行き交う町の風情をとらえています。本展覧会では新収蔵となる須田国太郎《下田港》を初公開します。
そのほか、ルノワールやボナール、牛島憲之らによる船の絵画からそこにただよう旅情をお楽しみいただけましたら幸いです。

展覧会紹介動画

動画配置予定

【仏教館】きん ぎん すみいろ—新収蔵・高野大師行状絵巻断簡とともに

上原コレクション名品選 【仏教館】きん ぎん すみいろ—新収蔵・高野大師行状絵巻断簡とともに

仏教のお経(経典)は、お釈迦さまのことばとされ、仏教徒にとって特別なものでした。お経には特別な力があり、魔や災厄から私たちを救ってくれると考えられたのです。また仏教には仏の悟り(真理)そのものを仏の本体、本質とする考え方もあり、真理を解き明かすお経の語句、一文字一文字はそのまま仏そのものでもありました。そこで仏教徒はお経を書写するにあたって一字一字に心を込め、特別な紙を用い、あるいは金や銀の文字で飾りました。本展ではこうして生まれた珠玉の古写経を展示いたします。
また当館では、弘法大師(空海)の生涯を描いた「高野大師行状絵巻」の断簡を新収蔵いたしました。高野大師とは弘法大師(空海)のことです。唐で密教を学んだ弘法大師は、帰国に際して膨大な文物を日本に持ち帰りましたが、これらの品々はその後の日本仏教、日本の文化の発展に大きな影響を与えました。当館が所蔵した断簡には空海が収集した膨大な文物を遣唐使船から積み下ろす場面が描かれています。空海が持ち帰った文物の多くはほかならぬ経典や書物でした。日本に経典がもたらされる現場を描いた美しい絵画と美麗な古写経の数々をあわせてご覧ください。

展覧会紹介動画

動画配置予定

【仏教館】特別展 無冠の仏像—伊豆・静岡東部の無指定文化財

【仏教館】特別展 無冠の仏像—伊豆・静岡東部の無指定文化財

仏像ブーム、国宝ブームと言われて十数年。日本美術の人気は衰えを知りませんが、ブームの主役は国宝や重要文化財で、こうした指定文化財に多くの方の関心が集中しているようです。ところで、現在、文化財指定を受けている仏像は、過去に見いだされ、研究され、その価値が広く認知されることで、指定を受けるに至りましたが、実は今日でも日本各地には、その存在を知られることなく伝えられている貴重な文化財が多数存在しています。
上原美術館は開館以来39年にわたって継続して伊豆の仏像の調査を行い、伊豆に貴重な仏像が存在することを明らかにしてきました。その結果、文化財指定を受けた仏像もありますが、学術的な価値が高いものの、信仰上の理由などから指定を受けていないもの、評価が遅れている仏像も未だ多数にのぼります。また、当館は現在も仏像調査を継続中で、従来全く知られていなかった仏像が日々、見出されています。このような仏像は、現時点では文化財指定を受けていないものの、美術史上、あるいは地域の歴史を考えて行く上で、忘れてはならない、かけがえのない貴重な文化財です。
本展は、伊豆を中心に、静岡県の仏像・仏画の調査研究の最前線にあり続けている当館が独自の調査で見出した仏像に加え、過去に貴重な像であると評価されながら、文化財指定を受けてない、「無冠」の文化財を、厳選して展示するものです。知られざる仏像・神像の数々を是非ご覧ください。

展覧会紹介動画

【近代館】上原コレクション名品選 まなざしをみる—画家とモデルの隠された視線

【近代館】上原コレクション名品選 まなざしをみる—画家とモデルの隠された視線

うっすらとした影の中からこちらを見つめるドラン《婦人像》。そのまなざしは、見るものに何かを語りかけるかのようです。絵の中のまなざしを辿ってみると、そこには時や場所を越えて、描かれた人との交流が生まれます。
絵画には、画家自身のまなざしも隠されています。マティス《鏡の前に立つ白いガウンを着た裸婦》は、大きな鏡の左端にカンヴァスとイーゼルが映り込んでいます。それらは画家の存在を暗示し、明るい色彩の中に複雑で豊かな空間を立ち上がらせます。
一見、何の変哲もない静物画にも画家のまなざしを見ることができます。セザンヌ《ウルビノ壺のある静物》は立体感をなくすかのように静物が真正面からとらえられています。セザンヌは同じ配置のモティーフを斜め上からも描いていますが、その試みは絵画における平面と立体の関係性を問うかのようです。安井曽太郎《銀化せる鯛》も不思議な構図です。この油彩画は、一か月以上描き続けて腐った鯛が「美しかつた。立派な銀の彫刻の様にも見えた」と、真上から見て描かれました。
鏑木清方《みぞれ》は、樋口一葉の小説「たけくらべ」の一場面です。うつむきがちのまなざしは、大人への成長の中で揺れ動く主人公の内面をあらわすかのようです。
本展では画家やモデルのまなざしに注目して、絵画の中に広がる不思議な空間へと入っていきます。まなざしが導く豊かな絵画の世界をどうぞお楽しみください。

展覧会紹介動画

上原美術館