【近代館】であう、はじまる—画家たちの初期作品

今では巨匠と呼ばれる画家たちにも、そのはじまりがあります。若く名もなき画家はさまざまな人や芸術と出あい、心を揺さぶられ、そして自らの表現の道を歩みはじめます。本展では画家たちの若き感性があふれる初期作品をご紹介し、その芸術の魅力と本質に迫ります。

《科学と慈愛》はピカソ15歳のときの作品です。幼少の頃より美術教師の父に絵の手ほどきを受けたピカソは、官展のために大作の準備を重ねます。その最終準備作がこの油彩画です。ピカソはこの絵を縦2メートルの大作に仕上げ、マラガの展覧会で金賞を受賞。そしてピカソの画家としての人生がはじまります。

《アニエール、洗濯船》はシニャック18歳の作品。自身の作品帖には最初の番号が振られています。シニャックは16歳の頃、モネに憧れて画家を志しました。セーヌ川の輝くみなもは、モネを思わせる筆触分割で描かれており、理論的な点描主義に至っていない、若き画家の瑞々しい感性に溢れています。

そのほか、駆け出しのゴッホが憧れのミレーの小さな版画を懸命に模写した《鎌で刈る人(ミレーによる)》、株式仲買人の仕事をしていたゴーギャンが日曜画家として描いた最初期の油彩画《森の中、サン=クルー》、自らの芸術を模索する若き梅原龍三郎が師ルノワールに見せ助言を受けた《モレー風景》、西洋美術研究のため大学院を中退してスペインに渡った須田国太郎がその地の風景を描いた《山の斜面》など、画家たちの初期作品をご紹介します。

上原コレクションには、画家たちのはじまりの作品が多くあります。そこには画家の人間性を見つめるコレクターの小さくやさしい「まなざし」にあふれています。画家たちの初期作品を通じて、上原コレクションの魅力をどうぞお楽しみください。

展覧会紹介動画

動画配置予定

【仏教館】伊豆 民間仏めぐり

六世紀に日本に伝来した仏教は、都に仏教文化の大輪の花を咲かせ、やがて各地に伝播しました。古代中世の造像を担ったのは、主に皇族や貴族、地方豪族、武士たちで、この時代、仏教美術の名品が数多く生み出されました。

室町後期から戦国時代になると、仏教が地方の民衆の間にも定着します。やがて江戸時代に入ると、全国津々浦々で民衆が仏像造像を発願し、時には様々な立場や階層の人々が自ら造像するようになりました。こうして生まれた仏像の数は、前代を圧倒します。量で見る限り、江戸時代は仏像造像の黄金時代なのです。

江戸時代の伊豆の人々は、江戸に住む仏師たちに造像を依頼したり、彼らが制作した仏像を購入して寺院やお堂に迎えることが多かったようです。しかしその一方で、各地の寺院の片隅に目を凝らし、地域のお堂を訪ねると、伊豆に生きた作者による仏像も伝えられています。これらの像は職業仏師が作る像と比較すると、素朴な造形の像が多いのですが、不思議な魅力を宿しています。

本展では、伊豆で生まれた、造形的には拙いかもしれませんが、愛らしく、愉快で親しみやすい魅力的な仏像を、伊豆半島の全域から集めて展示いたします。

展覧会紹介動画

動画配置予定

【仏教館】ちいさきものは みなうつくし

【仏教館】ちいさきものは みなうつくし

弘法大師の生涯を描いた絵巻物の断簡。ふっくらとした体にすっと天地を指す誕生仏。塔の中にみほとけの言葉が書かれたお経の一部。小さいながらも、大切に伝えられてきた作品は今も数多く遺されています。本展では、新収蔵・初公開となる《高野大師行状図画断簡》(紙本著色・鎌倉~南北朝時代)を中心に、上原コレクションから小さくも愛らしい仏教美術をご紹介します。

《高野大師行状図画断簡》は、真言宗の祖、弘法大師・空海の生涯を伝える絵巻物の一部分です。二人の対面する僧侶が描かれた本作は、中国・唐に留学中の空海のエピソードが描かれています。留学した空海は、当時、密教の第一人者であり、多くの弟子を持つ恵果阿闍梨に師事しました。ある時、恵果の弟子、珍賀が空海を誹謗します。しかしその夜、珍賀の夢に四天王が現れ、空海を誹謗したことを責めたてたため、翌朝、慌てて謝罪をしました。画面には建物の中に座す空海、庭でひれ伏し謝る珍賀の姿が描かれています。切り取られた絵巻物の一片にはゆたかな物語が広がっています。

《誕生仏》(銅造・鎌倉時代)も本展で初公開となる作品です。釈迦が生まれた姿をうつしとった誕生仏は、ふっくらとした小さな体で天地を指さしています。20㎝に満たない大きさの像ですが、微笑する口からは今にも「天上天下唯我独尊」と言葉を発しそうです。

本展では、《一字宝塔法華経》(長寛元[一一六三]年)や《大日如来像》(文永七[一二七〇]年)などを小さいながら愛らしい作品を展示いたします。手元にそっと置いて、対面したくなるような仏教美術の数々をお楽しみください。

展覧会紹介動画

【近代館】あわいひかり やわらかないろ

【近代館】あわいひかり やわらかないろ

上原コレクションの特徴は、個人コレクション特有のやさしさ、穏やかさにあります。見ていてほっとするそれらの絵は、生活をやさしく彩ります。今回のコレクション名品選では、新たに収蔵した安井曽太郎《庭の雪》を中心に、あわい光とやわらかな色彩による絵画をご紹介します。

安井曽太郎《庭の雪》は、木々の間に冬の気配が広がる風景画です。あわい光は木々や地面に積もった雪に反射して、画面全体を穏やかに照らし出します。雪に落ちる影は、緑がかった灰色、ピンクがかった灰色など、やわらかな色彩によって複雑なニュアンスを生み出しています。緑や黄土色などの中間色はわずかに置かれた黒と対比されることで、雪の白を息づかせています。枝の間から空を見上げると、滲むような光が広がり、静かな画面に冬の冷たい空気が満ちるかのようです。安井が本作を描いたのは、フランスから帰国後の長いスランプを経て自らの様式を生み出した時代でした。色彩を並べ置いて空間を生み出すその構成はセザンヌを想起させますが、あわい光とやわらかな色彩には安井独自のレアリスムを感じさせます。

本展ではそのほか、都市の喧騒をやわらかな中間色で描き出すアルベール・マルケ《冬のパリ(ポン・ヌフ)》、川面にあたる光のニュアンスを色彩で捉えたクロード・モネ《ジヴェルニー付近のセーヌ川》、にぶい光の中に紅白の花が浮かび上がる須田国太郎《牡丹》など、あわい光とやわらかな色彩による絵画をご紹介します。穏やかでやさしい上原コレクションの魅力をどうぞお楽しみください。

展覧会紹介動画

【近代館】ものがたりをよむ 

古くから人々に親しまれてきた「ものがたり」は、歴史や文化を越えて自由に想像の世界を楽しむことができます。そして、そこに広がる豊かな世界に心ひかれた画家たちによって、多くの魅力的な絵画が生み出されてきました。

日本画家の小林古径は歴史や文学への造詣が深く、物語や謡曲をはじめ、仏教などを題材とした絵画をたびたび描いています。なかでも平安時代の歌物語『伊勢物語』は古径お気に入りの主題でした。『伊勢物語』は全125段からなり、それぞれ異なる話が和歌とともにつづられています。

第23段「筒井筒」では、幼馴染の男女のエピソードが書かれています。お互い成長し、恥ずかしさから会わずにいた二人ですが、男が、

筒井つの 井筒にかけし まろがたけ
過ぎにけらしな 妹見ざるまに
(井戸の囲いで測り比べた私の背丈も、囲いの高さを過ぎてしまったようですね。あなたを見ないでいるうちに)

と女に歌を贈ります。女はそれに対し、

くらべこし 振分髪も 肩すぎぬ
君ならずして たれかあぐべき
(比べ合ってきた私の振り分け髪も肩を越えてしまいました。あなたでなくて誰のために髪あげしましょうか)

と返し、歌をやり取りすることで、心を通わせます。この第23段に由来する古径の《井筒》(表面作品)では、幼い二人の子どもたちが井戸の周りで遊ぶ場面が描かれています。余白を十分とった簡潔な画面からは、背丈や髪の長さを比べあったこども時代のさわやかな情景が目に浮かぶようです。

本展では、ワーグナーの楽劇『ニーベルングの指輪』に登場する女性戦士が遠い眼差しを湛えるルドン《ブリュンヒルデ、神々のたそがれ》、旧約聖書『創世記』より、最初の人類である男女が禁断の果実を受け取る場面を捉えたデューラー《アダムとエヴァ》、新約聖書においてベタニヤのマルタ・マリア姉妹との出来事を描いたルオー《キリストとの親しき集い、ベタニヤ》など、さまざまな「ものがたり」を主題とした絵画を紹介します。これらの作品に寄り添って、耳をかたむけてみてください。描かれた作品が、あなただけにそっと語りかけてくれるはずです。画家たちが生み出した多様な「ものがたり」の世界をどうぞお楽しみください。

展覧会紹介動画

【仏教館】特別展 仏像でみる伊豆の平安時代

最近、紫式部や清少納言が生きた、平安時代(10世紀後半~11世紀前半)に注目が集まっています。紫式部の『源氏物語』、清少納言の『枕草子』は有名ですが、この時代に朝廷で権勢をふるった藤原道長も日記『御堂関白記』を残しており、当時の貴族たちの生活や考え方を知ることができます。その一方で、同じ時代の地方については文献資料がほとんど残っておらず、上原美術館がある伊豆についても、その歴史や人々の営みはあまり明らかになっていません。しかし、伊豆には、平安時代の人々の心のよりどころとなった仏像が意外に多く伝えられています。本展は、文献ではうかがうことが難しい、伊豆の平安時代を、仏像を通じて考え、感じてみようと試みる展示会です。
観音寺の薬師如来像、向陽寺の阿弥陀如来像、善光庵の十一面観音像、法雲寺の如意輪観音像、金龍院の不動明王像は、10世紀から11世紀前半の像と考えられており、紫式部や藤原道長が生きた時代に造像された仏像。その後、千年近い年月、信仰されてきた貴重な仏像です。通常非公開の仏像、数十年に一度開帳される仏像も展示いたします。この機会に是非ご覧ください。

展覧会紹介動画

【近代館】もののありか 静物画のふしぎ

【近代館】もののありか 静物画のふしぎ 

「ものとは何か」。それは古来より哲学者が向き合ってきた問いのひとつです。「もの」という言葉は、そこにあって掴むことのできる対象をあらわす一方で、それ以上の「何か」を含んでいます。画家たちは静物画を描くとき、ある「もの」を描きながら、その後ろに広がる大きな存在を見つめています。
セザンヌ《ウルビノ壺のある静物》は、布の上に置かれた果物と西洋トマト、色鮮やかなマヨルカ焼の壺が描かれています。壺は真正面から捉えられ、背景に大きな影を映します。右奥にあるカーテンは、模様が生き生きとした筆致で描かれ、布の上のモティーフと呼応するかのようです。再び果物や壺に目を移すと、それらは空中に浮かび上がるかのように不思議な存在感を放ち始めます。
セザンヌが本作を描いたのは30代前半。先輩の画家ピサロの影響を受けながら、自らの絵画を模索する時期でした。この頃、セザンヌとピサロはともに絵を描き、近くに住む医師ポール・ガシェの家を度々訪ねました。ガシェはパリのカフェで印象派の画家たちと芸術論を交わし、自らも絵や版画を制作するパトロンでした。自宅にはアトリエもあり、友人の画家を招きますが、そのガシェの家で描かれたのが本作です。セザンヌは本作と全く同じ構図の静物を、別の角度からも立体的に描いています。セザンヌはこのとき平面や立体を行き来することで、「もののありか」そのものに問いを投げかけています。そうしたセザンヌのまなざしは、間もなくリンゴが転がるような独特の静物画を生み出していきます。
本展では画家たちが描く「もの」へのまなざしに注目することで、「静物画のふしぎ」に迫ります。セザンヌの影響のもと新たな表現を模索する若き安井曽太郎による《静物》、光を浴びる果物と平面的な装飾模様が対照的なマティス《果物皿の傍に立つオダリスク》、生命の儚さをあらわすモティーフを現代的に捉えたドラン《静物》、印象派の色彩に伝統美を融合させたルノワール晩年の《果物の静物》など、画家たちによる「もの」へのまなざしをご紹介します。画家たちが描き出す「静物画のふしぎ」をお楽しみください。

 

展覧会紹介動画

【仏教館】都の祈り 伊豆の祈り

【仏教館】都の祈り 伊豆の祈り 

6世紀、日本に伝えられた仏教は、伝えられた各地で、風土や人々の営み、祈りに応じて、多種多様な仏教美術を開花させました。上原美術館は、優れた仏教美術を収集してきましたが、その多くは上質で、造形的に整ったものです。コレクションの仏像や古写経は、全てが都で制作されたものではありませんが、都風を色濃く示すもの。本展ではこれを「都の祈り」と表現し、展示いたします。
一方当館は40年に渡り、伊豆の仏教美術の調査研究を続けてきました。当館が伊豆で出会った仏像は、古いものは都風ですが、時代が降るにつれ、人々の生活に寄り添うような、素朴で時に愛嬌さえ感じさせるような親しみ深い造形となっていきます。
本展は、上原コレクションの、上質で美しい、いかにも都風の仏像や古写経と、伊豆に伝えられた、素朴で拙くすら見える半面、親しみやすく、魅力的な仏像をあわせて展示し、奥深い仏教美術の世界をご覧いただくものです。
上原美術館の二天像は、平安時代後期の等身大の像です。甲冑に身を固めた太い体躯、怒りの表情は巧みで、専門仏師の作に相応しく、たくましく屈強な戦士の姿です。一方で、河津町の普門院の二天像は、江戸時代の像。ガラス玉をはめ込んだ瞳を見開き、やはり武装する姿ですが、腕の上げ下げもどこかぎこちなく、ユーモラス。踏みつけた邪鬼は怪獣のようです。この二つは同じ仏で、甲冑を身に着け、邪鬼を踏まえる姿勢まで同じものの、造形は大きく異なります。
上原美術館の薬師如来像は、洗練された上品な姿。修理銘からかつては京都に伝えられたと考えられる、いかにも都風な仏像です。一方、下田市吉佐美地区の毘沙門天像の造形は素朴で荒削り。この二つの像の年代は数十年しか離れていないはずですが、造形感覚は全く異なります。仏教美術の多様で豊かな¬¬祈りの造形をご覧ください。

展覧会紹介動画

【近代館】上原コレクション名品選 春の訪れ

花の香り、鳥の声、風の肌ざわり。身の回りにある自然は、わたしたちに春の訪れを知らせます。そして、絵の中にもその季節のうつろいが秘められています。

《桜と鉢形城址》は安井曽太郎が第二次世界大戦中、北京から帰って間もなく描かれました。安井は1944(昭和19)年夏、美術展審査のため満州に渡り、北京に立ち寄って制作をします。年末、北京で病に侵された安井は、そこで療養し、翌年3月に帰国。間もなく埼玉県寄居町に疎開しました。そこで描かれたのがこの風景画です。その美しい眺めは、鉢形城址の下を流れる荒川のせせらぎ、鼻をくすぐる春の香り、空を吹き抜ける風の肌ざわりをも想像させます。戦争が続く困難な時代にも季節は流れ、新たな春が訪れます。

本展では近年、新たに収蔵した安井曽太郎《桜と鉢形城址》のほか、伊豆・静浦に吹く冬の西風が春の気配を告げる梅原龍三郎《江ノ浦、残月》、暗がりの中から桜が浮かび上がる須田国太郎《枝垂桜》と横山大観《夜桜》、あたたかな季節の香りを感じさせるピサロ《エラニーの牧場》やモネ《藁ぶき屋根の家》など、春の訪れを感じさせる絵画をご紹介します。上原コレクションより、新たな季節の訪れをお楽しみください。

【仏教館】企画展 時の結晶 仏教美術 ―上原美術館の40年―

【仏教館】企画展 時の結晶 仏教美術 ―上原美術館の40年―

仏教美術は、仏教を核に、風土と文化、祈りが長い時をかけて生み出した、美の結晶です。一方、星の数ほど存在するモノの中から選び抜かれたコレクションも、独自の美意識の結晶といえるでしょう。本展は、上原コレクションの名品を通じて、上原美術館の40年に渡る収集の軌跡を振り返るものです。
当館の前身、上原仏教美術館が初めて収蔵した古美術は、平成元(1989)年収蔵の、十一面観音像でした。本像は今から千年以上前に造像された古像。しっかりとした鼻筋と、目尻の上がった目は、どこか異国的で、若々しく強い意志を感じさせる顔立ちです。
その後、当館は、村上華岳や平山郁夫の作品を相次いで収蔵しましたが、平成12(2000)年に上原近代美術館が開館すると、近代美術館との差別化の点から、再び古美術が見直されます。転機となったのは、平成19(2007)年収蔵の中尊寺経でした。これを機に、当館では古写経の収集を開始し、奈良時代の天平写経や、神護寺経、荒川経など平安時代の装飾経を相次いで収蔵。古写経収集は、当館の収集の一つの柱となりました。平基親願経は当館の古写経コレクションの白眉で、紺地を背景に美麗に彩色された童子が舞う扉絵が美しい作品です。
仏像の収集も継続中です。左写真の鎌倉時代の阿弥陀如来像は、当館の古仏像コレクション第2号。その後も平安時代の薬師如来像、二天像などを収蔵しましたが、制作年代が確定できる仏像が少ない中で、奇しくも同じ文永7(1270)年に造像された阿弥陀如来像と大日如来像を収蔵できたのは、収穫でした。
近年の上原美術館は、古い絵画作品も収蔵しています。「諸尊図像集断簡」は、本年度新収蔵作品。鎌倉時代の密教図像集の、不動明王に従う八大童子を描いた部分の断簡です。鎌倉時代に北条実時が設立した金沢文庫伝来の貴重な作品で、梅原龍三郎の旧蔵品でもあります。上原美術館の40年に渡る収集の「結晶」を是非ご覧ください。

上原美術館