鶸色ひわいろに萌えたかえでの若葉に、ゆく春をおくる雨が注ぐ。
あげ潮どきの川水に、その水滴はかずかぎりないうずを描いて、
消えては結び、結んでは消えゆるうたかたの、久しい昔の思い出が、
色のせた版畫はんがのやうに、築地川の流れをめぐつてあれこれとしのばれる。
(鏑木清方 随筆集『築地川』より)

鏑木清方(1878-1972年)は、幼い頃に暮らした東京・下町に深い郷愁の念を抱いていました。上原美術館で新収蔵しました画帖《築地川》は、清方の少年時代の思い出に満ちた作品です。
築地川はかつて築地を囲むように流れていた掘割の川で、そこには多くの人々が集い生活を営んでいました。外国人居留地があった「明石町」、夏は行人の憩いの場となった「伊達様の水門」、夕涼みに賑わう「亀井はし」、鰯売りが水揚げする「佃」など、水とともに生きる明治時代の人々の姿が作品からは垣間見えます。
また、清方は紫陽花をこよなく愛した画家としても知られています。それは幼少の頃に「明石町」にあった異人館で咲く紫陽花や、築地一丁目の「紫陽花の垣」に魅了されたことに始まるといいます。清方の思い出にあふれた画帖からは、少年時代に見た築地川流域の姿が目の前に広がるようです。
本展では美しい絵と文章でつづられた画帖《築地川》を中心に、清方が描いた明治の下町に暮らす人々の生活をご紹介します。清方の愛した穏やかな懐かしい日々の情景、そしてそこで生きる魅力的な人々の姿をどうぞご覧ください。

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