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アンリ・マティス Henri Matisse
エトルタ断崖 Les falaises à Etretat
1920年 油彩・カンヴァス 38.0×46.3cm

ドーヴァー海峡に面したエトルタは、白亜の断崖が切り立つ小さな漁村です。村のはずれには波蝕によって生み出された「象の鼻」と呼ばれる断崖があり、ドラクロワやクールベ、コロー、モネなど多くの画家がモティーフとしてきました。マティスは1920年と21年の夏にこの地を訪れて、「象の鼻」を多くの作品に描きました。

空にはノルマンディーの低い雲が流れ、断崖の沖にはヨットが浮かぶ夏の情景が描き出されています。マティスはこの時期、明暗をあらわす灰色や茶色などの中間色を多用しました。それらと黒を併置することで、一見暗い色調の灰色や茶色は美しい輝きを帯び、色彩を引き立たせています。海の水面(みなも)は水色と黄土色、黒の線のみで表現されていますが、ノルマンディーの海がもつ千変万化するやわらかな色調を見事にあらわしています。