牛島憲之
夕月富士
1987(昭和62)年 油彩・カンヴァス 53.3×91.0cm

山中湖から見た富士山の夕暮れのひとときです。山上には月が昇り、湖をゆく一艘の小さな船は雄大な自然に暮らす人々の気配を感じさせます。
本作は牛島憲之が87歳のときに描いた作品です。それまで多くの画家が描いた「富士山だけは描くまい」と思っていた牛島ですが、別荘のある伊豆への往復の際に富士山を見て、その心は次第に変化していきます。「その美しさがだんだんと私の心の中に蓄積されていき、あるとき突然限界点に達したのでしょう、急に描きたくなったのです。私には私の富士があるはずだ、と。八五の時でした」。火山が生み出した富士の美しい姿は、人間の一生を超えて、人々の心に悠然と聳(そび)え立つかのようです。