安井曽太郎
焼岳(上高地晩秋図)
1941(昭和16)年 油彩・カンヴァス(パネル張り) 39.0×50.7cm

焼岳は長野県と岐阜県にまたがる活火山で、その周囲には北アルプスの玄関口・上高地が広がります。焼岳は約2,300年前に最後のマグマ噴火を起こし、今も噴煙を上げています。大正4(1915)年には水蒸気爆発によって麓の梓川(あづさがわ)に土石流が流れ込んで、大正池が生まれました。木々が沈む清らかな水面には、季節によって美しく色彩を変える焼岳が映ります。
昭和13(1938)年、安井曽太郎は前年に患った中耳炎の静養を兼ねて上高地に滞在、2年後にもこの地を訪れて本作を描きました。「燒岳は終始噴煙していて仲々面白い山で、見所によるとちょっと凄い山に見えた」、「お手本の自然は少しもごたごたせず、全景が一つになって見えた。自然の調子にはくるいがないのだ」と安井は述べています。本作では暗い青であらわされた大正池が、立ち枯れた白樺のリズムによって明るい遠景へと続き、山を染める黄葉と、所々露わになった岩肌が画面を装飾的に彩ることで、秋に燃える焼岳の姿が美しく描き出されています。